植込み型ペースメーカは,1960年代に実用化されて以来,年々ハード面での改良が重ねられ,急速に小型化,高機能化が進んできた.またこれ
と並行してソフト面での進歩も著しく,房室順次ペーシングや心拍応答機能によりほぼ生理的心拍動を再現し得るに至っている.徐脈性不整脈に対
する恒久的ペースメーカ植込みは,薬物治療を含む他の治療の追随を許さない確立した治療法として,生命予後の改善はもちろんQOLの改善をも
その目的として広く臨床に用いられているが,一方で過剰植込みによる倫理・経済上の問題も指摘されている.このような現状をふまえて,より厳
密なペースメーカ植込み適応のガイドラインが求められてきた.米国においては,AHA/ACCの合同委員会が中心となり,1984年に最初のガイドライ
ンが提示され,その後1991年,1998年と大幅な改訂が加えられて今日に至っている8),9).我が国においても概ねAHA/ACCのガイドラインに準じて
植込み適応が考慮されてきたが,日本人の特性や社会的状況に見合った適応決定の必要性から,日本心臓ペーシング・電気生理学会(現日本不
整脈学会)の委員会が1995年に独自の心臓ペースメーカ植込みに関するガイドラインを発表している65).
医学的適応決定にあたっては,症状の性質と強さ,ならびにそれらと徐脈性不整脈の因果関係の把握が最も重要である.徐脈性不整脈に伴う症
状としては,一過性脳虚血による失神,眼前暗黒感,強いめまい,ふらふら感等,および長時間の徐脈による運動耐容能の低下や心不全症状等
が挙げられる.また,徐脈により悪化し得る心疾患の合併,徐脈を悪化させる可能性のある薬剤の使用が必須の場合,徐脈により脳梗塞発症の危
険性が高まるような脳血管病変の合併等も考慮すべきである.さらにホルター心電図や心臓電気生理検査における異常所見も重要である.
また社会的要因として,年齢,職業(電磁障害を受けやすい職業,高所で働く場合,自動車の運転等),身体活動度,家庭環境,生活環境,性
格,患者および家族の希望等を幅広く考慮すべきである.
以下のペースメーカ植込みの適応は新規の症例を対象として記載されている.バッテリー消耗に伴うジェネレーター交換に際しても,基本的には
同じ適応の下,同じ機種が用いられるが,一部には病態の進行が認められることがあり,電気生理検査による再評価,機種/設定の変更を要するこ
ともある.
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)