7 小児に対するペーシング
 小児のペースメーカの適応疾患は,(1)症候性洞徐脈,(2)徐脈頻脈症候群,(3)高度もしくは完全房室ブロックである117).これらの不整脈
に対するペースメーカの適応はほぼ成人と同様であるが,小児特有の問題がある.これらを列挙すると,(1)先天性心疾患術後の患者では,洞徐
脈や房室同期不全により症状が出現することがあり118),119),正常な小児の心拍数とは異なる心拍数の設定が必要である,(2)徐脈の基準は年
齢により異なる,(3)乳幼児や,静脈奇形,先天性心疾患がある場合に経静脈リード挿入が困難であり,心筋リードを考慮する必要がある,(4)小
児や先天性心疾患に対する無作為臨床試験が行われていないため,ほとんどのエビデンスレベルがCである,等がある.

 一般的に症候性の徐脈(心拍数40以下もしくは3秒以上の心停止)はペースメーカの適応である81),120),121).持続性もしくは反復性の心房内リ
エントリー頻拍に洞機能不全を合併する場合には,死亡率が高いことが報告されており122),123),長期間の心房ペーシングや,心房の抗頻拍ペー
シングが心房内リエントリー頻拍の予防や停止に有効であることも報告されている124),125).このような症例には,カテーテルアブレーション126)
や,手術127)も考慮する.

 無症状の先天性完全房室ブロックに対するペースメーカ適応の判断は困難であるが,平均心拍数,心停止時間,合併心奇形の有無,QT時間,
運動耐容能等を参考に適応を考慮する128),129).無症状の先天性完全房室ブロック患者にペースメーカを植込むことにより,長期生存率の改善,
失神の予防に有効であったとの報告130),131)がある一方,ペースメーカ植込み後に自己免疫性心筋障害やペースメーカによるdyssynchronyにより
心不全に陥ったとの報告もあり132)-134),心機能の経過観察は重要である.

 先天性心疾患術後の完全房室ブロックは予後不良であることが知られており135),術後7日を経過しても改善しない高度,もしくは完全房室ブロッ
クはクラスⅠの適応である136).しかし,周術期の一過性房室ブロックが数年もしくは数十年後に完全房室ブロックに進行した場合には突然死のリ
スクがあることも報告されている137),138).また,2枝ブロックに進行性のPR延長を来たした場合には高度もしくは完全房室ブロックへ進行する
可能性があり139),間欠性房室ブロック,原因不明の失神の既往がある場合にはクラスⅡ aの適応と考えられる.

 心内膜リードを用いた場合に,奇異塞栓を起こす可能性や140),将来の静脈路を確保するための植込み方法も考慮することが必要である.

◆  小児および先天性心疾患患者のペースメーカ植込みの適応

ClassⅠ:
 1. 症候性徐脈,心機能不全,低心拍出を伴う高度もしくは完全房室ブロック
 2. 年齢に不相応な徐脈に伴う症候性洞機能不全(徐脈の定義は年齢と期待心拍数により異なる)81),120),121),141)
 3. 術後少なくとも7日経っても回復しない高度もしくは完全房室ブロック135),136)
 4. 幅広いQRSの補充収縮,心室期外収縮,心機能不全を伴う先天性完全房室ブロック131)-133)
 5. 乳児の先天性完全房室ブロックで,心室レートが55拍/分未満,もしくは先天性心疾患があり心室レートが70拍/分未満のもの128),129)
ClassⅡ a:
 1. 先天性心疾患に洞機能不全を合併し,心房内リエントリー頻拍が反復する場合(洞機能不全は抗不整脈薬によるものも含む)124),141),142)
 2. 先天性完全房室ブロックで,1歳を過ぎても平均心拍数が50拍/分以下のもの,基本周期の2から3倍の心停止を伴うもの,もしくは症候性徐脈
を伴うもの130),143)
 3. 複雑心奇形に伴う洞徐脈で,安静時心拍数が40拍/分以下,もしくは3 秒以上の心停止を伴うもの
 4. 先天性心疾患に伴う洞徐脈もしくは房室同期不全により血行動態が悪化するもの119)
 5. 先天性心疾患術後に一過性房室ブロックがあり,脚ブロックを認め,原因不明の失神を伴うもの133),137)-139)
ClassⅡb:
 1. 先天性心疾患術後の一過性完全房室ブロックで2枝ブロックを伴うもの144)
 2. 無症状で,年齢相応の心拍数であり,QRSの延長がなく,心機能の正常な先天性完全房室ブロック130),131)
ClassⅢ:
 1. 無症状の先天性心疾患術後の一過性房室ブロックで,正常房室伝導に戻ったもの136),145)
 2. 第1度房室ブロックを伴う,もしくは伴わない先天性心疾患術後の2 枝ブロックで,完全房室ブロックの既往がないもの
 3. 無症状のWenckebach型第2度房室ブロック
 4. 無症状の洞徐脈で,RR間隔が3秒未満,かつ最低心拍数が40拍/分以上のもの
目次へ
Ⅲ 心臓ペースメーカ > 7 小児に対するペーシング
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)