不整脈に対する外科手術は根治療法として開発され,不整脈の解剖学的電気生理学的理解に貢献するとともにカテーテルアブレーション等他の
非薬物療法の発展にも大きく寄与した.不整脈外科は1959年にCouch446)が行った心室頻拍に対する心室瘤切除術に始まり,1967年には頻脈性
心房粗細動に対する房室ブロック作成術が行われた.しかし,電気生理学的機序に基づいた根治的外科治療は,1968年のSealy447),1969年の
Iwa ら448)によるWPW症候群に対する心内膜からの副伝導路切断術に始まる.その後,人工心肺を必要としない心外膜アプローチも開発され,
WPW症候群に対する外科治療は1980年代には広く普及した.1978年以降には,心室頻拍449),450),房室結節リエントリー性頻拍,通常型
心房粗動等に対する手術法が開発され,電気生理学的機序に基づいた不整脈外科治療が確立した.さらに1987年にはCoxら451),452)によって,
それまでは根治的な非薬物療法は不可能と考えられていた心房細動に対するmaze手術が開発された.同じ頃,虚血性心室頻拍に対する心内膜
切除と凍結凝固に左室形成術を組み合わせたDor 手術453)も開発された.これらの不整脈外科手術によって得られた成績と知見に基づいて1990
年代にはカテーテルアブレーションが急速に進歩し,広く普及した.その結果,maze手術と心室頻拍手術以外の不整脈外科手術の適応はカテー
テルアブレーションの不成功例や施行困難例および他の心臓手術を同時に行う場合等に限られるようになった.今後はこれらの不整脈手術の長期
成績の評価とともに,心房細動や心室頻拍の電気生理学的機序が解明されることにより,より根治的かつ低侵襲な不整脈外科手術の開発が期待
される.
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)