◆ 心房細動手術の適応
ClassⅠ:
1. 僧帽弁疾患に合併した心房細動で,僧帽弁に対する心臓手術を行う場合
ClassⅡ a:
1. 僧帽弁以外の器質的心疾患に対する心臓手術を行う場合
2. 血栓溶解療法や抗凝固療法抵抗性の左房内血栓症の合併,あるいは適切な抗凝固療法にもかかわらず左房内血栓に起因する塞栓症の
既往を有する場合
3. カテーテルアブレーションの不成功例あるいは再発例
ClassⅡb:
1. 孤立性心房細動で,動悸等の自覚症状が強く,QOLの著しい低下があり,薬物治療抵抗性または副作用のため使用不能な場合
2. 薬物治療が無効な発作性心房細動で,除細動等の救急治療を繰り返している場合
心房細動に対するmaze手術の開発と成功は1990年代初期における最も輝かしい成果の1つである451),452),454)-458).その後,手術の簡略化
や低侵襲化あるいはより生理的な心房興奮の回復を目的として,心房切開線の変更,凍結凝固や高周波エネルギーによる切開線の代用,あるい
は切開線の簡略化等が行われてきた459)-464).手術の危険性は弁膜症手術等の成人心臓手術とほぼ同様であり,適切な症例に施行すれば70
~ 90%で心房細動を洞調律に復帰させる.
僧帽弁疾患は心房細動をしばしば合併するが,僧帽弁形成術や人工弁置換術を行う際にmaze手術を併施することにより,術後脳梗塞の発生率
低下が認められる465).特に僧帽弁逆流症に対する弁形成術とmaze手術の同時手術は,術後遠隔期の脳梗塞発生率低下だけでなく,術後心機
能を改善し生存率も上昇させる466).僧帽弁手術以外の心臓手術においてもmaze手術を併施することにより,術後QOLの改善と遠隔成績の改善
が期待される467)-469).Maze手術では,高頻度反復性興奮が発生している肺静脈の電気的隔離と複数の心房切開線によるリエントリーの阻止が
心房細動停止の基本的機序である.しかし,肺静脈隔離だけでも心房細動が停止する例もあり460),症例ごとに心房細動の電気生理学的機序が
異なり469),症例によってはmaze手術のすべての切開線が心房細動停止に必要ではない可能性もある.また,maze手術の全ての切開線を行っ
ても洞調律に復帰しない例もある.術中マッピングによる電気生理学的機序に基づいた心房細動手術は,従来の不整脈外科で行ってきた手法を踏
襲するものであるが,術中マッピングの所要時間等さらなる検討が必要である470).心房を切開せずに伝導ブロックを作成するアブレーションデバイ
スの臨床応用により,手術が簡略化かつ低侵襲化された463).しかし,アブレーションデバイスでは完全な伝導ブロックが作製されていない場合も
あり,さらなるデバイスの改良とともに,術中の伝導ブロックの検証が必要である471).また,今後は体外循環や心停止を行わずに小開胸下あるい
はロボット手術を応用した心房細動手術の開発も期待される464)
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)