MADIT-Ⅰは非持続性心室頻拍を合併したQ波心筋梗塞(左室駆出率35%以下)を有し,電気生理検査によってプロカインアミドが無効な持続性
VT/VFが誘発された患者を対象とした臨床試験である308).ICDは慣習的薬物療法に比べて死亡率を54%低下させた.MADIT-Ⅱでは非持続性心
室頻拍の合併や電気生理検査での誘発性が除外され,心機能が低下した患者(EF< 30%)が対象となった309).平均20か月の観察期間におい
てICDによる有意な死亡率の減少(31%)が確認された.また,MADIT-Ⅱに登録された対照群の突然死発生率は年間約5%であった.さらに,最近
になってMADIT-Ⅱの8年にわたる長期追跡調査結果が発表され,遠隔期になるほどICDの有効性が高まることが示されている313).SCDHeFTは虚
血,非虚血の双方による心不全患者を登録した最大規模の一次予防前向き無作為割付試験である.主な登録基準は,(1)3か月以上の心不全歴
を有する,(2)ACE阻害薬,β遮断薬による心不全治療を受けている312),(3)LVEF≦ 35%,(4)NYHA心機能分類がⅡ~Ⅲ,の4 項目であり,
NSVTやPVC多発等の条件は除外された.冠動脈疾患が全体の59%を占め,ICD群はプラセボ,アミオダロン群に比して20%程度死亡率を減らし
た.
このように北米を中心にして行われた臨床試験の結果は,左室駆出率低下を伴う冠動脈疾患患者に対して,積極的なICD適応を支持している.
一方,我が国の冠動脈疾患患者の予後を観察したいくつかのコホート試験は比較的良好な生命予後を示している.4,133例の心筋梗塞患者の登録
前向き観察研究であるHIJAMI- Ⅱ(Heart Institute of Japan Acute Myocardial Infarction-Ⅱ)では,平均4.1年の観察期間中に突然死は1.2 % で
あり,MADIT-Ⅱ登録基準である左室駆出率30%以下の患者(全体の4.8%)の突然死は5 年で5.1%に過ぎなかった314).TannoらはMADIT-Ⅱの
登録基準に合致する患者90名の30か月間の追跡で突然死はわずかに2例であったとしている315).MADIT-Ⅱでは死亡例の約半数が突然死であっ
たことを考慮すると316),MADIT-ⅡのICD適応基準は我が国ではそれほど高い費用対効果度が得られない可能性がある.MADIT-IやMUSTTで示さ
れたような電気生理検査等の冠動脈疾患患者リスク層別化に有効な検査法の結果を利用することが推奨される254),308),309).
心筋梗塞後の不整脈基質は急性期であるほど不安定であり,突然死発生のリスクが大きいと言われている.この論理によれば,梗塞発生後の
ICD植込みはより早期なほど効果的であると考えられ,DINAMIT試験では心筋梗塞発生後早期(6 ~ 40日)の低心機能(LVEF≦ 35%)患者に対
するICDの有効性が検討された310).その結果,ICD群では非ICD群に比し不整脈死は有意に少なかったが,不整脈以外の心臓死が有意に多く,
総死亡は両群で差がなかった.また,MADIT-Ⅱのサブ解析から試験登録時に心筋梗塞発症18か月未満であった患者と18か月以上であった患者
で検討したところ,発症後18か月未満の患者では総死亡に対するICDの優位性が認められなかった317).急性心筋梗塞後患者に対するバルサルタ
ンの有効性を検討したVALIANTのサブ解析によると,心不全死や心破裂等非不整脈死が発症後一か月以内に多く,不整脈死は1~ 3 か月以降に
増加する傾向がみられた318).急性期は致死性不整脈から救えても再梗塞やポンプ失調等の問題があること,さらに急性期に血行再建を行うことで
逆リモデリングから心機能が改善することも予測される.心筋梗塞後に一次予防としてICDの適応を検討する場合は少なくとも発症後一か月生存の
患者に対して判断されるべきである.
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)