CRTに関する臨床試験のほとんどは洞調律の患者を対象としてきた.しかし,慢性心不全患者はしばしば心房細動を合併し,CRTの対象となり得
るNYHAクラスⅢあるいはⅣの患者では20~ 50%に心房細動が認められる432).心房細動例へのCRTの効果については臨床試験が少なく,まだ
課題が残る.MUSTIC-AF試験422)ではNYHAクラスⅢで,左室駆出率35%未満かつ3か月以上持続する心房細動を有し,徐脈性あるいは房室結
節アブレーションを行い,恒久的心室ペーシングの必要性がある患者(ペーシングによるQRS幅が200msec以上)を対象としている.クロスオーバー
デザインで行われ,右室ペーシングよりCRTの方が,運動耐容能を改善し,入院を減らした.なお,心房細動例におけるCRT有効性の指標となる自
己QRS幅については,エビデンスとなる前向き介入研究が少なく,定まっていない.観察研究を含めた今までの報告では,ペーシングやQRS幅が
より広い心房細動例(平均QRS幅が160msecを超える)が対象とされていた433).2010年のヨーロッパ心臓病学会(ESC)ガイドライン(2008年ガイ
ドライン重点改訂版)は434)心房細動例ではQRS幅130msec以上を適応としている.
心房細動例に対するCRTの適応で問題となるのは,房室伝導が亢進して頻脈になると両室ペーシングの頻度が減少することである.CRTにおけ
るペーシング率と総死亡および心不全入院の効果を検討した結果からは,ペーシング率が93%以上の例に有効性が高く,心房細動の既往を有する
例においても同様であった435).心房細動患者にCRTを行う場合,十分な両室ペーシングが得られるよう房室伝導を抑制することが重要であり,
薬物で不十分な場合は房室結節アブレーションも検討する.
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)