当初の臨床試験の多くはCRTの短期効果を検証する目的で実施され420)-425),CRT onとoffを3か月ごとにクロスオーバーするか(MUSTIC420),
MIRACLE421),MUSTIC AF422)),ICD適応の心不全患者を対象にICD単独とCRT-Dの効果を比較検討した(CONTAK CD424),MIRACLE
ICD425)).評価項目は,心不全症状の変化(NYHAクラス),運動耐容能の変化(6分間歩行,最大酸素摂取量等),左室径や左室駆出率の変化が
中心であった.いずれも心不全症状および運動耐容能の改善を認め,quality of life(QOL)も改善された.
COMPANION試験は生命予後を一次評価項目とした無作為化大規模臨床試験である321).NYHAクラスⅢあるいはクラスⅣ で, 左室駆出率35
% 以下,QRS幅120msec以上の患者を対象とし,最適薬物治療(コントロール),CRT-P(ペーシング機能のみのCRT),CRT-Dの3群に無作為に
振り分け,一次評価項目である総死亡および心不全入院の複合エンドポイント,二次評価項目である総死亡を比較検討した.その結果,CRT-
P/CRT-Dは薬物治療に比し総死亡および心不全入院を約20%抑制した.総死亡については,薬物治療群に比しCRT-Pが24%(p=0.059),CRT-D
が36%(p=0.003)抑制した.ただし,COMPANIONはCRT-PとCRT-Dの比較ではなく,薬物治療群に対するCRTの効果を検証したものであった.
続くCARE-HF426)では,心室性不整脈に対するICD適応のないNYHAクラスⅢあるいはクラスⅣ,左室駆出率35%以下,QRS幅120msec以上(た
だし,120~ 149msecには同期不全を伴うという条件をつけた)の患者を対象とし,CRT-Pと薬物治療の予後に対する効果を比較検討した.平均29
か月の観察でCRT-Pは死亡を36%(p<0.002)抑制した.さらに観察期間を平均37か月に延長した結果でも(CARE-HF extension427)),CRTPは
総死亡を40%(p< 0.0001)抑制し,心不全死を45%(p= 0.003),突然死を46%(p= 0.005)抑制した.
一般にNYHAクラスⅣ患者は生命予後そのものが悪い.COMPANIONでは対象者のうちNYHAクラスⅣであった217名について検討を加えている
428).その結果,CRT-P/CRT-D群は心不全による死亡や入院を薬物治療群に比して抑制したが,総死亡についてはCRTの優位性を認めなかった.
ただし,NYHAクラスⅣの患者は12か月以内に少なくとも1回の心不全入院歴がある外来通院患者であり,30日以内に心不全入院や強心薬等の
静注を受けた患者は除外された.他の臨床試験でも強心薬等の持続静注を受けていないNYHAクラスⅣの患者が対象となっている. このためCRT
が適応となるNYHAクラスⅣとは,6か月以上の余命があると判断される「ambulatory(通院可能な程度の)」のNYHAクラスⅣの患者で,CRTによ
る生命予後の改善には限界があるものの心不全増悪の防止には役立つであろう.
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)