1 徐脈性不整脈
◆ 診断を目的とした心臓電気生理検査

ClassⅠ:
 1. 失神,めまい等の症状と徐脈との因果関係が不明な場合
 2. 失神,めまいを有し,原因として徐脈が疑われる場合
ClassⅡ a:
 1. ペースメーカの適応のある洞機能不全または房室ブロックで,洞結節機能や房室伝導障害の評価が必要な場合
 2. 症状のないMobitzⅡ型第2度房室ブロック,第3度房室ブロックおよび2枝または3枝ブロックでブロック部位の同定および洞結節機能評価が
       必要な場合
ClassⅡb:
 1.症状のない慢性2枝ブロック
ClassⅢ:
 1. 症状のない洞徐脈, 第1 度房室ブロック,Wenckebach型第2 度房室ブロック

 診断を目的とした電気生理検査では診断の確定のみでなく,失神,めまい等の自覚症状が徐脈性不整脈によるかを診断することが重要である.
洞機能不全や房室ブロック等の徐脈性不整脈において,自覚症状は認められるが,モニター心電図やホルター心電図ではその関係が証明されな
い場合も多い.洞結節機能は洞結節回復時間と洞房伝導時間や洞結節電位記録法で評価される18)-22).房室ブロック,心室内伝導障害の例で
はHV間隔の測定,高頻度心房刺激法によるブロックの出現を確認し,自覚症状との関係を検討する23)-25).ペースメーカ植込み後の症例で失神
やめまい等の自覚症状がある場合には電気生理検査により他の頻脈性不整脈の有無を評価し,さらに過敏性頸動脈洞症候群,神経調節性失神
の合併の有無を評価する.原因不明の失神,めまいを有する例では,その原因として徐脈性不整脈による場合が考えられる.過敏性頸動脈洞症
候群,神経調節性失神では電気生理検査の診断的意義は高くなく,ホルター心電図,運動負荷心電図やhead-up tilt試験26)との組み合わせによ
り診断を行う.

 ペースメーカの適応のある洞機能不全,房室ブロック症例で,洞結節機能や房室伝導能を評価することはペースメーカの機種選択を行う上で重要
である24).生理的ペーシングは患者のQOLを改善し,心房細動の予防ひいては生命予後の改善をもたらす19),27).無症状でもブロック部位がHis
束内またはHis束以下の場合がある23)-25).特に基礎心疾患を有する症例では無症状でもペースメーカの適応となる場合がある.無症状の2枝ブ
ロックは将来高度房室ブロックに進行する可能性は否定できないが28),電気生理検査を積極的にすすめるエビデンスはない.新たに出現したり,
基礎心疾患を有する症例で心臓カテーテル検査をする場合に付加的に電気生理検査によりHis-Purkinje系の伝導能を評価しておくことは意義があ
る.

◆ 薬効評価を目的とした心臓電気生理検査

ClassⅠ:なし
ClassⅡ a:
 1. 洞機能不全で徐脈が内因性か自律神経機能不全かあるいは薬剤によるかの判定が必要な場合
 2. 徐脈頻脈症候群で頻脈に対する必要不可欠な薬剤により徐脈の悪化を来たす場合
 3. 無症状の洞機能不全症例で洞機能不全を増悪させるおそれのある薬剤の投与が必要な場合
 4. 無症状の房室ブロック,心室内伝導障害例で伝導障害を増悪させるおそれのある薬剤の投与が必要な場合

 徐脈性不整脈の薬効評価を目的とした電気生理検査にClassⅠの適応はないが,診断を目的とした電気生理検査の評価が,自覚症状と一致し
ない場合,薬物負荷を行う.Ⅰa 群のプロカインアミドやジソピラミド,Ⅳ群のベラパミルを静注し,洞結節,房室結節,His-Purkinje系の機能を評価
する29),30)

 洞機能不全の原因が内因性か自律神経機能不全あるいは薬剤によるかは治療法の選択に重要である.自律神経の影響を除外する目的で薬理
学的自律神経遮断を行う.硫酸アトロピン0.04mg/kgとプロプラノロール0.2mg/kgを静注し評価する22).薬剤の影響が考えられれば投与中止して
から評価し,自覚症状との関係を再評価する.無症状の洞機能不全,房室ブロック,心室内伝導障害例で不整脈を増悪させるおそれのある薬剤の
投与が必要な場合は電気生理検査により評価を行う.特に基礎心疾患を有する例では重要である.

◆  ペーシング治療の有効性確認を目的とした心臓電気生理検査

ClassⅠ:
 1. 神経調節性失神,閉塞性肥大型心筋症におけるペーシング治療の有効性を一時的ペーシングによって確認する場合
ClassⅡ a:
 1. 徐脈性心房細動に対するペーシング治療の有効性を一時的ペーシングによって評価し,ペースメーカ植込みの適応を決定する場合
 2. 心不全症例における両室ペーシング(心臓再同期療法,CRT)の有効性を一時的ペーシングによって確認する場合

 徐脈性不整脈では治療を目的とした電気生理検査はないが,一時的ペーシングを行い,心機能や自覚症状を評価することは治療法選択に有用
である.

 神経調節性失神,閉塞性肥大型心筋症におけるペーシング療法の有効性が示されている31).しかしその有効性は症例によって異なり一時的
ペーシングによって確認が必要な場合がある.

 徐脈性心房細動に対するペーシング療法の有効性を心臓カテーテル検査によりペーシングレートを変化させて評価し,一時的ペーシングを長期間
留置させ,自覚的・他覚的症状を評価しペーシング療法の適応を決定する.心不全症例における両室ペーシング(心臓再同期療法,CRT)の有効
性を一時的両室ペーシングにより評価し,その適応を検討することがある32)
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不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)