2 頻脈性不整脈
◆ 診断を目的とした心臓電気生理検査

ClassⅠ:
 1.症状のあるnarrow QRS頻拍
 2.wide QRS頻拍
 3. 失神,めまいを伴う動悸発作を有するWPW症候群
 4. 失神,めまいを有し,原因として頻拍が疑われる場合
ClassⅡ a:
 1. 動悸発作の原因として頻脈性不整脈が疑われるが,心電図等により確認できない場合
 2.症状のないnarrow QRS頻拍

 頻拍の診断においては,電気生理検査における頻拍の誘発あるいは頻拍に必須の不整脈基質を同定することが重要であるが33),頻拍の機序に
よってはプログラム刺激よりも各種の薬物負荷が有用である.

 非心臓性の原因(甲状腺機能亢進症,貧血等)を除外した頻脈性不整脈は電気生理検査の対象となる.症状のあるnarrow QRS(<120msec)
頻拍34)-36)や自覚症状にかかわらず心室頻拍を含むwide QRS頻拍37),38)はその機序としてリエントリーの可能性が高く電気生理検査の良い適
応となる.頻拍の診断は治療方針の決定に有用であり,カテーテルアブレーションによる根治の可能性が高い36),39).失神,めまいを有するWPW
症候群では突然死の可能性があり,頻拍の誘発および副伝導路の不応期の測定によるハイリスク群の同定が重要である40),41).なお,アブレー
ション治療を想定する症例では診断目的の電気生理検査とアブレーションを一期的に実施することが多い.原因不明の失神,めまいを有し,原因と
して頻拍が疑われる症例では頻拍の誘発だけでなく基礎心疾患の診断も重要となる.

◆ 治療効果判定を目的とした心臓電気生理検査

ClassⅠ:なし
ClassⅡ a:
 1. 持続性単形性心室頻拍に対する薬効および催不整脈作用の評価
 2. 心室頻拍に対するカテーテルアブレーション後の慢性期評価が必要な場合
ClassⅡb:
 1. 房室結節リエントリー性頻拍または房室回帰頻拍の薬効判定
 2. 洞結節リエントリー性頻拍,心房頻拍,心房粗動の薬効判定
 3. 上室性頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーション後の慢性期評価が必要な場合

 電気生理検査における薬効評価は,頻拍の誘発阻止効果を有効指標として行われ,電気生理検査ガイド治療と呼ばれる.心室頻拍に対する電
気生理検査ガイド治療の予防効果は,ホルター心電図や運動負荷試験等の非侵襲的な評価法に比して高いと考えられるが,ESVEM
(Electrophysiological Study Versus Electrocardiographic Monitoring)試験では電気生理検査ガイド治療とホルター心電図を用いた薬効評価に
差がないとされ42),電気生理検査ガイド治療の限界も指摘されている43).アミオダロンでは電気生理検査ないしホルター心電図ガイド治療の
有用性も報告されているが44),経験的に投与することが多い.

 器質的心疾患のない右室流出路または左室中隔起源の特発性持続性単形性心室頻拍ではカテーテルアブレーションの成功率が高いが,器質
的心疾患を有する心室頻拍,特に血行動態が悪化する症例では植込み型除細動器が適応となる.AVID(Antiarrhythmics Versus Implantable
Defibrillators)研究45)においては,心室頻拍/心室細動の二次予防で,薬物による予防治療よりも植込み型除細動器治療が予後改善に寄与する
ことが示されており,植込み型除細動器治療が一般的となった現在,電気生理検査ガイド治療の意義は発作頻度を減少させる等,補助的な意味に
留まると言える.単形性心室頻拍においては,電気生理検査ガイドによる予防治療薬選択も有用であり46)-49),また多形性心室頻拍や心室細動
誘発性評価による催不整脈作用の予知にも有用とされるが50),51),植込み型除細動器を適用する症例では予防治療の効果判定は必須ではない.

 房室結節リエントリー性頻拍または房室回帰頻拍に対し薬効評価が行われていたが,QOL,副作用の問題等から最近では薬効評価を行わずに
カテーテルアブレーションを選択する場合が多い.また,洞結節リエントリー性頻拍,心房頻拍,心房粗動症例で薬効判定が有用とする報告は少な
い.

 カテーテルアブレーションの効果判定では,上室性頻拍の再発は1~3%と少なく,動悸発作の再発を認めない限り必要ないが,他の頻拍が新た
に出現する場合もある.心室頻拍では再発率は高く致死的となる場合もあり48)-50),植込み型除細動器の適用等,より強力な二次予防治療の併
用を考慮する45)

◆ リスク評価を目的とした心臓電気生理検査

ClassⅠ:
 1.心停止蘇生例
 2. 原因不明の失神発作または左室機能低下を有する器質的心疾患に伴う非持続性心室頻拍
 3. 症状のないWPW症候群で,突然死の家族歴があるか,危険度の高い職業に従事している場合
ClassⅡ a:
 1. 非持続性心室頻拍あるいは心室期外収縮頻発例で,器質的心疾患を有し,加算平均心電図にて心室遅延電位が陽性の場合
 2. 失神の既往あるいは突然死の家族歴のあるBrugada症候群
ClassⅡb:
 1. 非持続性心室頻拍で,心機能低下を伴わない器質的心疾患を有する場合
 2. 心室期外収縮頻発あるいは非持続性心室頻拍で,加算平均心電図にて心室遅延電位が陽性で,器質的心疾患を認めない場合
 3. 失神,めまいを伴う動悸発作の既往あるいは家族歴のあるQT延長症候群

 突然死のリスク評価に関しては,致死的不整脈の誘発の可否で判定が行われているが,危険度の高い症例の同定は必ずしも容易ではなく,ホ
ルター心電図,運動負荷,加算平均心電図,T波交代現象(T wave alternans)等による評価を併せて総合的に判定する.

 心筋梗塞急性期を除く心停止蘇生例は心室頻拍,心室細動の再発率が高く,従来から電気生理検査ガイド治療が行われている.器質的心疾患
を有する非持続性心室頻拍においては左心機能低下例が問題となり,左室駆出率40%未満の場合,陳旧性心筋梗塞,拡張型心筋症,肥大型心
筋症では電気生理検査によるリスク評価を積極的に行う52)-55)

 症状のないWPW症候群では,突然死の家族歴があるか,パイロット等の危険度の高い職業に従事している場合は,電気生理検査により副伝導
路の不応期を測定し不応期の短いハイリスク群を同定する41)

 QT延長症候群のリスク評価における電気生理検査の意義は少ないが,失神あるいは症状のある頻拍の既往を有するQT延長例では,心腔内
マッピングにより単相性活動電位を記録し,早期後脱分極との関連を検討することがある56)-58).近年,器質的心疾患のない若年~中年者
の突然死の原因としてBrugada症候群が注目されているが,心電図上特徴的なV1 ~V3誘導のST上昇は検診では0.05~ 0.4%に認められる.自
覚症状のない症例が大半であるが,失神既往あるいは突然死家族歴のあるBrugada型心電図例では植込み型除細動器の適用を考慮する必要が
ある.電気生理検査における心室細動誘発の可否を適応決定に用いるか否かには議論があるが,誘発例は非誘発例よりも予後が悪いことを示す
報告もある59)-62)

 器質的心疾患がない心室期外収縮頻発例では電気生理検査の有用性は低いと考えられている.誘発される不整脈は,不整脈の種類や誘発プ
ロトコールによって臨床的意義に差がある.加算平均心電図にて心室遅延電位が陽性の場合には電気生理検査を考慮することもある63),64)
目次へ
Ⅱ 心臓電気生理検査 > 2 頻脈性不整脈
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)