ClassⅠ:
1. 心室細動または心停止の既往を有する患者
ClassⅡ a:
1. torsade de pointes または失神の既往を有し,β遮断薬が無効の場合
2. 突然死の家族歴を認め,β遮断薬が無効の場合
ClassⅡb:
1. torsade de pointes または失神の既往を有するが,β遮断薬が有効な場合
2. 突然死の家族歴を認めるが,β遮断薬が有効な場合
注)β遮断薬の有効性は症状と負荷によるQT延長の程度で判断する.LQT3と診断された場合は,β遮断薬は無効とする
QT延長症候群(Long QT syndrome; LQT)は,心電図上のQT間隔延長,異常T波,多形性心室頻拍(torsade de pointes; TdP),失神あるいは
突然死を特徴とする疾患群である.臨床的には先天性LQTと二次性(後天性)LQTに分類され,さらに先天性LQTは,難聴を伴わず常染色体優性
遺伝を示すRomano-Ward症候群と,難聴を伴い常染色体劣性遺伝を示すJervell and Lange-Nielsen症候群に分けられる.QT延長症候群では,
TdPがコントロールされれば長期予後は良好である.治療法としては,β遮断薬,恒久的ぺ一シング,左側頸胸交感神経節切除が有効であることが
多い.QT延長症候群の登録調査によると,死亡率は0.9~ 2.6% /年で363)-365).死亡例の細かい検討では,50歳までに死亡した147名のうち
57%は20歳までに死亡しており特に若年者での突然死が目立っている365).21歳未満の若年者のQT延長症候群患者を対象とした疫学調査363)
では,平均5年の観察期間中に突然死した症例は全体の8%で特にQTc が0.60sec1/2を超えるものやβ遮断薬が無効であった症例において突然
死の危険性が高かった363).したがってこれらの登録調査から突然死はQT延長が著しく,若年者で,β遮断薬を服用していない者に多いと考え
られる.しかし,β遮断薬を服用していても9%に突然死があり363),365).また,QT延長症候群の25%はβ遮断薬服用中にも失神が出現しており,
β遮断薬投与中にも失神のみられる症例は突然死のハイリスク患者とされている.このハイリスク患者に対する左側頸胸交感神経節切除,ペーシン
グは突然死を減少させる363).現在のところ,QT延長症候群に対するICD植込みの長期観察データは極めて少ない.1994年の報告では,ICD患者
200例中ハイリスクのQT延長症候群に対する植込みは2例(1%)に過ぎず366),1993年のSilkaらの報告では125例の小児に対するICDのうち14例
(11%)であり,8例(57%)に作動がみられている367).1996年Grohらは,TdPが記録されている失神例,QT延長症候群の家族歴を有する
ハイリスク患者35例を検討し.31か月の観察で作動は60%にみられ,突然死はみられなかったと報告している368).最近,遺伝子検査が可能とな
り,
遺伝子型別のリスク評価が報告され,LQT1およびLQT2でQTc が0.50sec1/2以上の患者,男性のLQT3,女性のLQT2の危険性が最も高いと報告
されている369).また,初回心事故の発症年齢はLQT1が若く,特に男性では15歳以下に集中して発症しているが,20歳以降の初回発症は比較的
少ないこと,生涯心事故発生率はLQT1,2で高いが,心事故による致死率はLQT3で高いこと等が報告されている370),371).
QT延長症候群に対するICDは,β遮断薬等の治療に抵抗性の再発性の失神や突然死蘇生例が適応となる.特に,心停止蘇生がQT延長症候群
の最初の発症である場合,心臓突然死の家族歴がある場合,あるいは薬剤服用の遵守または薬剤不耐性が問題となる場合等にはICDの使用を
考慮すべきである368).しかし,ICDは対症療法に過ぎず,植込み後の頻回作動により精神障害を来たすこともあり,特に小児ではその適応は
慎重にすべきである372).近年,ICDのサイズの縮小により小児のQT延長症候群に対しても使用可能となり,また,ICDのアルゴリズムの進歩によ
り,失神を来たさない一過性のTdPに対してICDを作動させないような設定が可能となり,今後,QT延長症候群に対するICDの適応は拡大すると考
えられる.しかし,QT延長症候群における突然死の頻度はそれ程高くないことより,現段階では,突然死家族歴がなく,症状のないQT延長症候群
に対するICDの予防的植込みを妥当とするデータはない.
◆ 先天性QT 延長症候群に対する左心臓交感神経節切除術
ClassⅠ:なし
ClassⅡb:
1. ICD植込み後にβ遮断薬治療にかかわらず頻回作動を認める場合
2. β 遮断薬による治療にかかわらずtorsade de pointesによる失神を認める場合
我が国ではほとんど行われていない手術であるが,欧州からは薬剤抵抗性の患者に施行され,良好な結果が報告されている369),373),374).
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)