2 心房細動
ClassⅠ:
 1. 高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず,かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性の有症候性の発作性心房細動で,年間50例以上
の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合
ClassⅡa:
 1. 薬物治療抵抗性の有症候性の発作性および持続性心房細動
 2. パイロットや公共交通機関の運転手等職業上制限となる場合
 3. 薬物治療が有効であるが心房細動アブレーション治療を希望する場合
ClassⅡb:
 1. 高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認める薬物治療抵抗性の有症候の発作性および持続性心房細動
 2. 無症状あるいはQOLの著しい低下を伴わない発作性および持続性心房細動
ClassⅢ:
 1. 左房内血栓が疑われる場合
 2. 抗凝固療法が禁忌の場合

 心房細動では血栓塞栓症のリスクが増大し,心房収縮の欠如と不適切な心室拍数による心機能低下や胸部症状が出現し得る.その治療戦略
は,年齢や心房細動持続期間,器質的心疾患の有無等により異なる.心房細動は発症7日以内に洞調律に復する発作性,7 日以上持続する持続
性,除細動不能の永続性に分類される.

 心房細動の治療にはリズムコントロールとレートコントロールがある.主として持続性心房細動患者を対象としたAFFIRM試験163),RACE試験
164),STAF試験165)では両治療戦略間で生命予後に差はなかった.主として発作性心房細動を対象とした我が国のJ-RHYTHM試験166)では死亡
率,脳梗塞,入院率のいずれにおいても有意差は認められなかった.AFFIRM試験のサブ解析では,洞調律が維持された患者の予後は良好で
あったことが示され,全体としては抗不整脈薬の副作用のために有用性が相殺された可能性がある167).一方,抗不整脈薬治療に比して肺静脈隔
離アブレーションによる洞調律維持効果が優れているとの報告が多い168)-175).6 か月以上の持続性心房細動において,電気的除細動後の抗不
整脈薬治療群(58%)よりカテーテルアブレーション実施群(74%)において12か月後の洞調律維持率が有意に高かった171).発作性心房細動の多
くの患者においてトリガーが肺静脈内に存在し,左右の肺静脈を左房から電気的に隔離するアブレーション法により心房細動の再発が予防可能で
ある176).現在,同側上下の肺静脈をまとめて隔離する広範肺静脈隔離術177),4本の肺静脈を個別に隔離する方法178)が実施されるが,いずれも
再発例に対しては2回目のアブレーションが必要となり,特有の合併症発生のリスクが存在する.成功率は45~ 94%で,最近は80%以上との報告
が多い173),179)-192).薬剤なしでの洞調律維持率は59~ 93%とされる.合併症として左房食道瘻,左房起源心房頻拍,肺静脈狭窄,動脈塞栓
症,心タンポナーデ,迷走神経障害(消化管運動障害),横隔膜神経障害等が報告されている193),194).1995~ 2006年の45,115件の統計では,
1,000例の心房細動アブレーションに対して0.98例(0.098%)の死亡率であった195)

 なお本改訂版では,薬物治療抵抗性の有症候性発作性心房細動に対するアブレーションを「年間50例以上の心房細動アブレーションを実施して
いる施設で行われる場合」という条件付きでクラスⅠ適応とした.「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」では,発作性心房細動
のリズムコントロールの第一選択は抗不整脈薬で,第二選択として肺静脈隔離術(アブレーション)が推奨されている.薬物治療後の再発性発作性
心房細動に対するカテーテルアブレーションの有用性が示されており169)-175),本改訂版では薬物治療が有効でない場合に実施されるアブレー
ションをクラスⅠとして位置づけた.クラスⅠ適応に実施症例数の条件(年間50例以上)をつけた理由は,心房細動アブレーションの安全かつ確実な
実施には高度の技術と経験,設備等が要求されるためで,有用性に関するエビデンスも症例数の多い施設から報告されており,恒常的に実施して
いることが有効性,安全性と関連すると判断されたためである.我が国でも心房細動アブレーション施行数が年々増加しているが,登録制度による
治療成績,合併症等に関する前向き調査や各施設での実施状況,成績の開示も必要となるであろう.

 持続性心房細動に対するアブレーションの有効性は,肺静脈アブレーション単独では20~ 61%,Complex fractionated atrial electrogram
(CFAE)アブレーションでは9 ~ 85%と様々である171),184),196)-198).肺静脈アブレーション単独では不十分で,CFAEアブレーションや
線状焼灼の追加によって抗不整脈薬なしで47~95%,およそ70%以上の洞調律維持が期待できる186),190),199-204).この成績は2~ 3 回
セッションを実施した結果である.持続性と発作性心房細動に対して肺静脈隔離術単独よりもCFAEアブレーションを組み合わせた方が1年後の洞
調律維持率が高いと報告されている205)

 長期成績に関しては,発作性心房細動で正常左室機能の患者において,一部に複数回のセッションを要した広範肺静脈隔離術による約5年後の
洞調律維持率は79.5%,臨床的改善率は92.5%との報告がある206).発作性(51%),および非発作性(49%)心房細動に対して広範肺静脈隔離
術(一部に線状焼灼追加)実施2年後の洞調律維持は87%(抗不整脈薬なし72%,使用15%),再発は13%,QOLスコアはアブレーション3か月後
から有意に改善し,2年間持続した207)

 アブレーションにより長期間洞調律が維持されればワルファリン投与の中止が考慮されるかもしれない.心房細動アブレーション成功群を対象
とした後ろ向き解析では,アブレーション3~ 6か月後に抗凝固薬を中止にした群と継続した群を比較すると,約2 年間の脳塞栓症と大出血の頻度
は中止群で有意に低かった208).前向きの大規模無作為試験による確認が必要であるが,現時点では血栓塞栓症のハイリスク例では継続すべき
であろう209)
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Ⅳ カテーテルアブレーション > 2 心房細動
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)