改訂にあたって

目次へ
 1980年代,欧米では不整脈,特に頻脈性不整脈に対する非薬物治療は飛躍的な進歩を遂げた.我が国ではその導入,普及が約10年遅れ,
1994年にカテーテルアブレーションが,1996年に植込み型除細動器(Implantable cardioverter-defbrillator; ICD)が承認され,保険適用となった.
我が国の「不整脈の非薬物治療ガイドライン」は2001年に初版が策定・刊行されたが,カテーテルアブレーションについてはWPW症候群,上室性
頻拍を中心に相当数のアブレーションが実施されており,適応が明確に記載された.一方,心房細動,非定型的心房粗動,器質的心疾患に伴った
心室頻拍等の複雑不整脈への適応は一部の症例に限られた.1990年代から開発が始まった3次元マッピングシステムはこれらの複雑不整脈の機
序解明とアブレーション成績向上に大きく寄与してきた.我が国では2000年にCARTOシステムが,2006年にEnSiteシステムが認可され,それま
で難治性とされた不整脈も多くの例で治療が可能となった.カテーテルアブレーションが不整脈の標準的治療として普及したことを受けて2006年に
ガイドラインが改訂され(2006年改訂版),上室性頻拍に対するアブレーションの適応が拡大されるとともに心房細動を含む複雑不整脈に対しても
適応が記載された.その後,特に発作性心房細動を中心として症例数が増加し,肺静脈隔離術が標準的手技として実施されるようになり,「心房細
動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」および「不整脈薬物治療ガイドライン(2009年改訂版)」では薬物治療抵抗性の心房細動に対し,
第二選択の治療法としてカテーテルアブレーションが推奨されるに至った.その他の不整脈も同様で,アブレーションが薬物治療に次ぐ第二選択,
場合によっては第一選択として位置づけられるようになった.3 次元マッピングシステムもバージョンアップにより機能向上し,2008年に第二世代
のCARTO-XP,2011年に第三世代のCARTO3が,そして2009年にEnSiteの新機能であるNavXが認可された.さらに我が国への導入が遅れたイ
リゲーションチップカテーテルが2009年に使用可能となった.これらのアブレーション支援技術の進歩もあり,複雑不整脈,特に心房細動,心室頻
拍等の難治性不整脈に対するカテーテルアブレーション適応のさらなる拡大,明確化が求められるようになった.

 ICDについて見ると,初版のガイドライン作成当時(1999~ 2000年)の我が国のICD症例数は少なく,エビデンスは皆無に近かった.そのため欧
米の大規模研究によるエビデンスと我が国の専門家のコンセンサスにより,主として心臓突然死二次予防のためのICD適応が作成された.致死的
不整脈ハイリスク例に対する一次予防については,MADIT-Ⅰ(1996年),MUSTT(1999年)の試験結果を受けて,非持続性心室頻拍か原因不明
の失神を有し,心機能低下を認め,電気生理検査で心室頻拍/細動が誘発される場合を適応とした.2001年の初版刊行後,欧米ではMADIT-Ⅱ
(2002年),SCD-HeFT(2005年)試験等の一次予防試験の結果が報告され,これらのエビデンスに基づき,ICDの一次予防の適応は拡大された.
我が国でも2006年改訂版で二次予防法としてのICD適応が明確化されるとともに,一次予防についても心不全症状と心機能低下を認める例にまで
適応が拡大された.その後のテクノロジー発展に伴うデバイスの高性能化,サイズの縮小化等もあり,ICDの適用例数はさらに増加し,最新のエビ
デンスを取り入れたガイドライン改訂が必要となってきた.2007年に「QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライ
ン」が策定・刊行されたが,同様の致死的不整脈に対するICD適応について,記載上の整合性も必要となった.

 ICDとともに発展した治療手技として,心室内伝導障害を伴う慢性心不全に対する両心室ペーシング,すなわち心臓再同期療法(Cardiac
resynchronization therapy; CRT)がある.特に左脚ブロック型の幅広いQRSと慢性心不全(NYHAクラスⅢ,Ⅳ),心機能低下を有する例に対する
CRTの症状,運動耐容能,そして生命予後改善効果が多くの臨床試験によって立証された.米国ではCRTが2001年FDAの認可を受け,さらに両
心室ペーシング機能付きICD(CRT-D) も開発された.COMPANION試験によってCRT-Dの慢性重症心不全症例における心不全死と突然死の予
防による生命予後改善が立証され,2002年にFDAの認可を受けた.我が国では2004年にCRTが,2006年にCRT-Dが保険適用となった.2006年
のガイドライン改訂版刊行後,幅広いQRSと心機能低下に加え,軽度~中等度心不全(NYHAクラスⅡ,Ⅲ)を有する例に対するCRT-Dの有用性が
報告され,2010年のRAFT試験ではNYHAクラスⅡ患者においてCRT-DがICDに比して生命予後を改善することが示された.CRT適応の基準となる
QRS幅の設定や心機能,心不全の程度,心房細動例への適用等今後も検討を要するが,CRT,CRT-Dの適応についてアップデートする必要が生
じた.

 2006年改訂版以降に我が国で刊行または認可された不整脈診断・治療に関するガイドライン,デバイス・機器等の主要なものを以下に示す.エビ
デンスの根拠となる臨床試験については各項目を参照されたい.
 (1)CRT-Dへの保険適用(2006年)
 (2)「 臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン」の刊行(2006年)
 (3)「 QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン」の刊行(2007年)
 (4)「 心房細動治療(薬物)ガイドライン」全面改訂版の刊行(2008年)
 (5)「 不整脈薬物治療ガイドライン」部分改訂版の刊行(2009年)
 (6)イリゲーションチップカテーテルの認可(2009年)
 (7)「 心臓突然死の予知と予防法のガイドライン」部分改訂版の刊行(2010年)
 (8)「 慢性心不全治療ガイドライン」部分改訂版の刊行(2010年)
 (9) 第二/第三世代3次元マッピングシステムの認可〔CARTO-XP(2008 年),CARTO3(2011 年),EnSite NavX(2009年)〕

 最近の医用工学の進歩とともに非薬物治療のいずれもがめざましく発展しており,また多くの大規模臨床試験により各々の適応拡大に関するエ
ビデンスが蓄積されている.このような背景をふまえて2006年版の部分改訂を行い,ここに2011年版を策定した.
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)