不整脈の非薬物療法のような高度の新医療技術を要する治療の適応決定にあたっては,患者が自ら理解し得る言葉で十分な情報を与えられた
上での自由意思に基づく同意(informed consent)が不可欠である.その説明内容は個々の医師の知識と経験に基づく判断に影響されるが,具体
的には下記の情報を患者に提供することが必要である.(1)病気に関わる情報(不整脈の種類,重症度,基礎心疾患等),(2)治療内容および
それによってもたらされる効果に関わる情報(一般的情報のみならず当該施設における実績に関する情報が必要),すなわち治療目的と内容(ペー
スメーカやICD,CRT/CRT-Dについては機種名および製造会社名を含む),その治療効果と成功率,急性期合併症の種類と重症度および発生頻
度,長期追跡時の合併症の種類と重症度および発生頻度,そして本治療法を選択した理由,(3)本治療法以外の治療法(薬物療法,他の非薬物
療法,さらに当該施設のみならず,他施設で可能な治療法)とそれによってもたらされる効果(各々の成功率と合併症等),(4)本治療法を行わず
に放置した場合に予想される結果に関わる情報(予測される転帰とその確率等),(5)各種不整脈に対する本治療法の位置づけ,予測し得ない合
併症が存在し得ること(短期および長期),および今後の治療の進歩の可能性等である.以上の情報提供後,患者が他の医師や医療機関の意見
(セカンドオピニオン)を求めれば,これに応える必要もある.
一方,日常診療の場で上記情報を患者に十分提供することは必ずしも容易ではない.それは現代医学自体の限界や,当該医師の知識と経験の
限界に基づく場合もあれば,情報によって患者の混乱を招く場合もあり,インフォームド・コンセントの内容は重要な課題であろう.さらに今後施
設基準を満たした施設名および学会による認定医等の開示のみならず,実施症例数と治療成績(成功率,合併症)の開示も求められるであろう.
非薬物治療の適応決定にあたっては“自己決定権”が最も重要であるが,「患者が強く希望するから」「患者が望まないから」ということを過大評価
することには慎重でなければならない.これは決定の根拠となる医療情報に偏りが生じる可能性が否定されないためである.医師はより正確かつ
最新の情報を提供できるように自己研鑽に励み,かつ患者・家族の理解度に応じてわかりやすく説明できる手法を身につけるべきである.そしてイ
ンフォームド・コンセントが患者にとって利益と不利益を比較考慮し患者自身が“真の利益”を選択できる唯一の機会であることを医師は十分に認識
しなければならない.
不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(JCS 2011)